八海醸造が選んだニセコの魅力
静けさに包まれている蒸溜所は「世界への窓」
日本酒「八海山」で知られる八海醸造のグループ会社が、ニセコ町にウイスキー蒸溜所を構えた。
新潟を拠点とする蔵元が、遠く離れたこの地を選んだのはなぜか。
その理由をたどると、この地の奥深い魅力が見えてくる。
森の中に伸びた一本の小道をたどると、その先に現れる大きな三角屋根の建物こそがニセコ蒸溜所だ。
余計な装飾を排した端正なたたずまいは、まるでアートミュージアムのように見える。
澄んだ空気と静けさに包まれ、ここでは、時間が流れるのではなく、積もっていくように思えた。
ウイスキーがゆっくりと熟成を待つにふさわしい場所だ。
入り口から中に向かうと、2基の銅製ポットスチルが立ち並ぶ。
金属の輝きが存在感を放ちながらも、空間には柔らかな温もりがある。
TOP/ニセコアンヌプリによって育まれた伏流水を使って仕込んだ「オホロ ジン」。
入オホロはアイヌ語で「続く」を意味する。ウイスキーやジンを蒸溜する作業を間近に感じながら、施設内でジンやそのカクテルなどを味わうことができる。
天井には地元産のカラマツ、カウンターは木組み、テーブルにはヤチダモ、椅子にはセンノキ。
入この土地の木を随所に使っている。
入「カウンターで注文してお酒を飲むこともできますよ」とショップマネジャーの鈴木夏恵さんが教えてくれた。
入冬のハイシーズンには、海外から訪れたスキーヤーや旅人が集い、昼間からグラスを片手に語り合う光景が広がるという。
入多彩な人でにぎわう海外のバーさながらだ。世界から観光客の訪れるニセコらしい。
入ここはウイスキー製造の場であり、海外に向けて情報を発信できる「世界への窓」のような場所でもある。
金属と木が融合した空間巨大な銅製ポットスチルやジン用蒸溜機が重厚な輝きを放つ一方で、木造のぬくもりに包まれている。
入金属と木、異なる素材が調和した建築だ。
入構造材には地元・後志産の「ようていカラマツ」を使用し、「HOKKAIDO WOOD BUILDING」に登録されている。
入蒸溜所でありながら、バーやショップを併設し、酒造りを五感で楽しめる場として開かれているのも特徴。
入優れた意匠は「日本空間デザイン賞2022」で入賞し、「第56 回日本サインデザイン賞」では銀賞に輝いた。
ショップには酒類や食品のほか、日本の職人技が光る酒器や器など、ウイスキーのように時を重ねて価値を増す品々が並ぶ。
八海醸造の会長・南雲二郎氏はニセコを何度も訪れるうちに、この地の豊かな自然に心惹かれた。
入ニセコアンヌプリの山々から流れ出る伏流水は驚くほど清らかで、尽きることがない。
入夏でも冷涼な気候は、ウイスキーの熟成に理想的だった。
入そして何より、町全体が自然との共生を重んじ、景観を守るための独自基準を設けている。
入南雲氏はそこに深く共感したという。
入樽の中で眠るウイスキーは、土地の気候と時間に抱かれ、唯一無二の味わいを生み出す。
入だからこそ、上質な環境が保たれていなければならない。
入一時的なものではなく、長い時間の経過に耐えうる環境である。
ショップマネジャーの鈴木夏恵さんが試飲を通じて「オホロ ジン」を解説。オホロ ジンは「International Spirits Challenge 2024」ジン・カテゴリーの最高賞「トロフィー」を受賞、「World GIN Awards 2024」クラシックジン部門で世界最高賞を受賞している。
「自分たちが100年後のこの地に立っている姿を想像してほしい」。
入南雲氏は社員にそう語った。
入地域に根差した蒸溜所として、100年先まで続いてほしいという思いが込められている。
入そして、裏を返せば、この場所ならば、それができると信じているいうことだ。
入100年後、この蒸溜所が育んだウイスキーがどんな味わいを持つのかは、誰にも分からない。
入ただひとつ確かなのは、蒸溜所そのものが、豊かな自然の中でウイスキーのように成熟していくということだ。
入素晴らしい自然とともに、同じ価値観を持った人たちと歩みをともにできる環境で、ゆっくりと。
ニセコ蒸溜所は製造エリアとバー・ショップからなる。別棟で貯蔵庫あり。見学ツアーでは、ウイスキーやジンの製造工程の解説を受け、有料試飲を楽しめる。所要時間は1 時間ほどで、予約が必要。