華やかさの先にある豊かさ
日々の積み重ねにつくられた高橋牧場の今
土が豊かな土地は、暮らしも豊かだ——。
「高橋牧場 ニセコミルク工房」を運営する高橋守さんはそう語る。
世界の富裕層から熱い注目を集める国際的なスキーリゾート、ニセコ町。大規模な開発と賑わいを見せるその華やかさの一方で、この土地には自然の恵みとともに生きる、もうひとつの「豊かさ」が息づいている。
鮮やかな緑の牧草地が広がり、その奥には羊蹄山が超然としてそびえる。観光客でにぎわう高橋牧場からの景色は、まさにニセコの象徴的な風景だ。
もっとも、高橋さんにとってこの風景は、幼少期から見慣れた日常に過ぎなかった。小学生の頃、先生から「こんなに美しい景色、素晴らしい環境の中で暮らせるなんて、すごくいいね」と言われたときも、当時はその意味がよく分からなかったという。
だが、父から牧場を継ぎ、牛を育て、野菜をつくるようになり、その言葉の意味を実感することになる。
TOP/青々とした草原と広い空。高橋牧場のつくる美しい景観だ。もっとも劇的なドラマを見せてくれるのは夜明けだ。濃紺の空が赤みを帯びて、羊蹄山のシルエットが鮮明になる。もうひとつのハイライトは日が暮れてから訪れる。東京の空をビルの明かりが覆うように、ここでは無数の星々がまたたくのだ。
高橋さんが牧場に隣接する形で建てた集合住宅。loowellと同じように高気密で快適に過ごすことのできるつくりになっている。特徴的な外壁は、杉板の表面を焼くことで耐久性を高めた「焼き杉」という伝統的技法が使われている。
いい土がなければ何も育たないんですよ
幼少期は、手伝いをさせられるのが嫌で牛舎に近寄らなかったという高橋さん。しかし、高校時代に品評会に出す牛の世話を手伝ったことがきっかけとなり、この仕事の楽しさを知った。牧場を継いでからは理想の牛づくりに没頭し、年間20本以上のトロフィーを手にした年もあった。
その経験で気づいたのは、日々の積み重ねの大切さだった。
「世話をおろそかにすると、牛は1週間もすればまったく別物になるんです」
牛と同じく、作物づくりもたゆまぬ努力の連続だ。
「いい土がなければ、何も育たないんですよ」と高橋さんは言う。同じ畑でも、わずかな場所の違いで土質は変わる。だからこそ、土の声に耳を傾けることが必要なのだという。
化学肥料を多用すれば、短期的には収穫量が増えるかもしれない。だが、それでは土は年々痩せてしまう。手間はかかっても、高橋さんは熟成した堆肥を畑に入れ、時間をかけてなじませる。バクテリアの力を借りて土を耕し、自然のサイクルの中で豊かさを取り戻していくのだ。
高橋さんが行政に働きかけ、1999年に堆肥センターが設立された。この取り組みもあって、ニセコ産の作物はいまも高く評価されている。時間をかけて育てた「豊かな土」は、地域の豊かさそのものを支えている。ニセコの豊かさは、一朝一夕にできたものではない。ゆっくりと、丁寧に、自然と向き合いながら積み重ねてきた年月が、この土地の価値をつくっている。
スキーリゾートの華やかさの先にある、静かな豊かさ。それこそが、この地の魅力にほかならない。
レストランPRATIVO の大窓から見る羊蹄山は圧巻。つくりたてのチーズをたっぷり乗せたピザ、搾りたての牛乳を使ったスイーツなどが味わえる。
Tel :0136-44-3734
9:30 - 18:00 ※冬季は10:00 - 17:30
定休日 : 無休